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第3章では、海外進出後の事業展開を分析する前段階として、中小企業の海外進出の動向を分析した。進出企業数の増加や市場開拓目的の増加など、中小企業の海外進出は変化している。また、進出前の準備をみると、進出年代が新しいほど、フィージビリティスタディ(F/S)や撤退基準の設定などを実施した割合が増加している。このことから、中小企業による海外進出は、進出年代が新しいほど、より計画的なものに変化していると結論付けた。こうした進出前準備のなかでも、F/S 実施の有無が、海外拠点の成果と関係していることも明らかにした。\n 第4章と第5章では、現地市場開拓について分析を行った。第4章では、中国市場を開拓した中小消費財メーカー3社の事例研究を行うとともに、それらから得られた結論を中国市場開拓から撤退した中小消費財メーカー2社の事例と比較することで、結論の妥当性を検討した。第5章では、中国において現地自動車メーカーとの取引を実現した中小自動車部品メーカー3 社の事例研究を行った。\n 第6章から第9章では、海外からの撤退に焦点を当てて分析を行った。第6章では、アンケートから中小企業による海外撤退の実態を定量的に分析した。第7章では、存続拠点と撤退拠点を含むアンケートを用いて、どのような要因が海外拠点の存続に影響しているのかを統計的に分析した。第8章では、海外からの撤退について、撤退拠点の成果に着目して分析を行った。第9章では、撤退後の事業展開についても分析を行うことで、海外拠点の成果と撤退について考察した。\n 第10章では、以上の分析を踏まえて、第1章で示した分析視角に基づき、本稿の結論を整理した。まず、現地市場開拓については、中小消費財メーカーと中小自動車部品メーカーの取り組みを比較した結果、次の結論を得た。第一に、進出後に事業目的が変化し、現地市場開拓に取り組んだ企業が多い。第二に、現地市場開拓を実現するうえでは、海外企業の活用が重要な役割を果たしている。活用の方法は、連携から合弁企業の設立、買収までさまざまみられた。第三に、現地市場に投入する製品をみると、先進国向けと同等品質の製品を投入している企業が多い。設計や仕様を変更し、先進国向けよりも品質を落とした製品を投入する企業もみられるが、こうした動きは主流とはなっていない。第四に、生産・調達体制をみると、中小消費財メーカーにおいては、進出当初に構築した生産・調達体制を活用する企業が多い。一方、中小自動車部品メーカーの場合は、投入製品によって生産・調達体制が異なっていた。先進国と同等品質の部品を供給する事例企業では、先進国製機械を活用することで、品質確保に努めつつ、低コストで生産する体制を構築している。低価格部品を供給した企業では、既にある海外製設備を活用したり、海外製材料を活用することで、コスト低減を実現している。\n 次に、撤退については、アンケートから次の結論を得た。第一に、中小企業の海外撤退数は、2000年代に入って増加しており、10年以降はさらに増加傾向にある。第二に、主な撤退理由は、「製品需要の不振」「現地パートナーとの不調和」「管理人材の確保困難」の3つである。大企業の撤退理由では、「組織再編・経営資源の見直し等に伴う拠点統廃合」が高い割合を占めていることを勘案すると、中小企業の海外撤退理由は、全般的には大企業とは異なる。第三に、中小企業は、撤退する際に、何らかの課題に直面したとする企業が多いものの、撤退する際に誰にも相談していない企業が多い。こうした点を改善することは今後の課題である。\n 海外拠点の存続要因については、次の結論を得た。① 海外拠点の業況が赤字であるほど、撤退が発生しやすいこと、② 進出時の出資比率が低いほど、撤退が発生しやすいこと、③ 現地の経営責任者が日本本社の役員・従業員であるほうが、撤退が発生しやすいことを明らかにした。ただし、事例研究を踏まえると、③ については、日本本社の役員・従業員だからというよりも、日本本社から派遣される役員や従業員の質が大きく影響している可能性がある。\n 海外直接投資の成果については、加藤(2011)の成果とアンケートを踏まえて、試算を行った。撤退後、企業存続困難となった先を海外拠点で成果を上げられなかった企業と仮定すると、海外拠点の約65% は成果を上げられていないとの結果を得た。こうした結果は、中小企業の海外直接投資が決して簡単ではないことを示しているものと考える。\n 一方で、「撤退は本当に失敗なのだろうか」という問題意識のもと、撤退拠点についても成果に着目して分析を行った。先行研究では、中小企業による海外撤退は「失敗事例」として分析されることが多い。だが、本稿の分析では、一定の成果をあげていたにもかかわらず撤退したとする海外拠点が4割存在することを明らかにした。こうした企業を具体的にみると、投資期間全体では成果は上げながらも、外部環境の変化を踏まえたうえで、撤退を主体的に選択している。\n これらの分析結果を踏まえて、「撤退拠点の成果」を撤退分析に取り入れる必要性を指摘するとともに、成果をあげながらも海外から撤退することを「戦略的撤退」と定義し、撤退分析の枠組みを提示した。この枠組みに当てはめると、本稿では、中小企業においても戦略的撤退を行う企業が出てきていることを明らかにしたことになる。こうした中小企業の撤退理由をみると、中小企業全般の撤退理由とは異なっており、むしろ大企業の撤退理由に近い。このことは、中小企業においても、大企業と同様な撤退が出始めていることを示している。\n 撤退後の事業展開については、次の結論を得た。第一に、中小企業による海外撤退後の事業展開は、多様である。ある拠点からの撤退は、必ずしも海外事業からの撤退を意味しない。その後、新たに海外拠点を設置する企業もあれば、撤退した拠点をその後も生産委託先として活用する企業もみられる。第二に、撤退拠点で成果を上げられなかった企業も、撤退拠点で得た経験を別の海外拠点で活用することで、成果を上げている企業が多くみられる。こうした撤退経験のなかでは、日本本社による管理強化を図る企業が多い。\n これらの分析からは、現地市場開拓に取り組んだり、撤退を行ったりするなど、中小企業が海外事業の変革を進めていることがわかる。海外展開を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、中小企業は今後、こうした海外事業の変革にますます取り組む必要があるだろう。\n 以上の結論を踏まえて、海外展開する中小企業の発展に向けた課題として、① 進出前準備の重要性、② 海外事業変革への取り組み、③ 現地市場開拓における海外企業の活用、④ 経営者の役割の4点を指摘した。また、今後の研究課題として、① 海外進出後の事業変革に関する多方面からの分析、② 海外企業の活用に焦点を当てた実態分析、③ 海外直接投資以外の海外展開形態との比較分析の3つを最後に示した。", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_113_description_24": {"attribute_name": "目次", "attribute_value_mlt": [{"subitem_description": "目次\n第1章 はじめに ................................................................................... 1\n1 問題意識と分析対象 ........................................................................ 1\n( 1 ) 問題意識 ................................................................................. 1\n( 2 ) 分析対象 ................................................................................. 3\n2 分析視角 ....................................................................................... 7\n( 1 ) 進出後の事業展開‐現地市場開拓と撤退‐ .................................... 7\n( 2 ) 海外拠点の存続要因 .................................................................. 8\n( 3 ) 海外直接投資の成果 .................................................................. 9\n( 4 ) 撤退後の事業展開 ..................................................................... 9\n3 本稿の構成 ................................................................................... 10\n第2章 先行研究 .................................................................................. 12\n1 本章の目的 ................................................................................... 12\n2 中小企業の海外展開に関する先行研究 ............................................... 12\n( 1 ) 海外展開プロセス .................................................................... 13\n( 2 ) 現地拠点の機能 ....................................................................... 14\n( 3 ) 海外展開の形態 ....................................................................... 16\n( 4 ) 日本国内への影響 .................................................................... 18\n( 5 ) 国際経営論との関係 ................................................................. 21\n3 小括: 先行研究の意義と課題 ........................................................... 23\n第3章 中小企業の海外進出動向 ............................................................. 24\n1 本章の目的 ................................................................................... 24\n2 各種データにみる中小企業の海外進出における近年の特徴 .................... 24\n( 1 ) 海外展開する中小企業は少数 ..................................................... 24\n( 2 ) 増加する中小企業の海外直接投資 ............................................... 25\n( 3 ) 市場開拓を目的とした海外直接投資の増加 ................................... 28\n3 アンケートにみる海外進出前準備の変化 .............................................. 28\n( 1 ) データ ................................................................................... 28\n( 2 ) 進出前の準備にみる変化 ........................................................... 30\n4 小括 ............................................................................................ 36\n第4章 中小消費財メーカーによる中国市場開拓 ........................................ 37\n1 本章の目的 ..................................................................................... 37\n2 先行研究 ........................................................................................ 38\n( 1 ) 新市場開拓 ............................................................................. 38\n( 2 ) 海外市場開拓 .......................................................................... 38\n( 3 ) 中小消費財メーカーによる現地市場開拓 ...................................... 42\n( 4 ) 研究の視点と研究方法 .............................................................. 42\n3 事例研究 ........................................................................................ 44\n( 1 ) A 社 ...................................................................................... 44\n( 2 ) B 社 ...................................................................................... 46\n( 3 ) C 社 ...................................................................................... 48\n4 現地市場開拓にみられる特徴 ............................................................. 50\n( 1 ) 現地市場開拓に至る経緯 ........................................................... 50\n( 2 ) 製品 ...................................................................................... 52\n( 3 ) 販売体制 ................................................................................ 55\n( 4 ) 生産・調達体制 ....................................................................... 59\n( 5 ) 背景 ...................................................................................... 60\n5 撤退事例による確認 ....................................................................... 61\n( 1 ) ターゲットの設定と投入製品、販売ノウハウに課題(D社) ........... 61\n( 2 ) 投入製品に課題(E社) ............................................................ 64\n( 3 ) 分析 ...................................................................................... 65\n6 小括 .............................................................................................. 67\n第5章 中小自動車部品メーカーによる中国市場開拓 .................................. 68\n1 本章の目的 ................................................................................... 68\n2 中国自動車市場の現況と日系自動車部品メーカーの動向 ....................... 69\n( 1 ) 中国自動車市場の現況 .............................................................. 69\n( 2 ) 中国における日系自動車部品メーカーの動向 ................................ 71\n3 先行研究 ...................................................................................... 72\n( 1 ) 中国自動車メーカーにおける部品調達 ......................................... 72\n( 2 ) 中小部品メーカーによる現地市場開拓 ......................................... 74\n( 3 ) 研究の視点と研究方法 .............................................................. 75\n4 事例研究 ...................................................................................... 76\n( 1 ) F 社 ....................................................................................... 76\n( 2 ) G 社 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統計データにみる中小企業の海外撤退 ............................................... 96\n( 1 ) 各種統計データにおける制約の存在 ............................................ 96\n( 2 ) 増加傾向にある中小企業の海外撤退 ............................................ 98\n( 3 ) 大企業より高い撤退比率 ......................................................... 100\n3 先行研究 .................................................................................... 101\n4 アンケートにみる中小企業の海外撤退 ............................................. 103\n( 1 ) データ ................................................................................. 103\n( 2 ) 撤退拠点の概要 ..................................................................... 105\n( 3 ) 撤退の経緯 ........................................................................... 109\n( 4 ) 撤退時の課題と撤退完了の要因 ................................................ 111\n( 5 ) 進出前の取り組み .................................................................. 113\n( 6 ) 海外直接投資を成功に導く要因 ................................................ 116\n5 小括 .......................................................................................... 117\n第7章 中小企業の海外撤退に影響する要因は何か ................................... 118\n1 本章の目的 ................................................................................. 118\n2 先行研究 .................................................................................... 118\n( 1 ) 企業の海外撤退要因 ............................................................... 118\n( 2 ) 中小企業の海外撤退 ............................................................... 119\n3 分析の概要と仮説 ........................................................................ 120\n( 1 ) 仮説 .................................................................................... 120\n( 2 ) データの概要と推計方法 ......................................................... 122\n( 3 ) 変数 .................................................................................... 122\n4 推計結果と考察 ........................................................................... 125\n5 小括 .......................................................................................... 130\n第8章 海外直接投資の成果と撤退‐ 撤退は本当に失敗か- ....................... 132\n1 本章の目的 ................................................................................. 132\n2 アンケートにみる海外直接投資の成果 ............................................. 133\n3 事例研究: 成果を上げながらも撤退した中小企業 .............................. 136\n( 1 ) 日本本社との関連性を考慮し撤退(I社) .................................. 136\n( 2 ) 撤退に向けて海外拠点の体制を整備(J社) ............................... 138\n( 3 ) 現地経営環境の変化を踏まえて撤退(K社) .............................. 141\n( 4 ) 合弁先の方針転換を踏まえて株式を売却(L社) ......................... 144\n4 考察 .......................................................................................... 146\n( 1 ) なぜ成果をあげながらも撤退したのか ....................................... 146\n( 2 ) 成果を上げながら撤退できた要因は何か .................................... 150\n( 3 ) 撤退後に設置した海外拠点の成果と要因 .................................... 151\n( 4 ) 海外撤退を分析するための仮説的枠組み .................................... 153\n5 小括 .......................................................................................... 155\n第9章 撤退後の事業展開‐撤退経験活用の視点から- ............................. 157\n1 本章の目的 ................................................................................. 157\n2 アンケート ................................................................................. 157\n( 1 ) 撤退後の海外拠点との関係 ...................................................... 157\n( 2 ) 撤退経験の活用と海外拠点の成果 ............................................. 160\n3 事例研究: 撤退後の事業展開 ......................................................... 163\n( 1 ) 日本本社による管理を強化(M社) .......................................... 163\n( 2 ) 合弁での失敗を踏まえ独資により再度進出(N社) ..................... 165\n( 3 ) 撤退後も生産委託先として当該拠点を活用(O社) ..................... 167\n4 考察 .......................................................................................... 170\n( 1 ) 撤退後の海外事業との関係 ...................................................... 170\n( 2 ) 撤退経験の活用による成果 ...................................................... 171\n5 小括 .......................................................................................... 173\n第10章 結論 .................................................................................... 174\n1 結論 .......................................................................................... 174\n( 1 ) 進出後の事業展開: 現地市場開拓の実態 .................................... 174\n( 2 ) 進出後の事業展開: 撤退の実態 ................................................ 177\n( 3 ) 海外拠点の存続要因 ............................................................... 178\n( 4 ) 海外直接投資の成果 ............................................................... 179\n( 5 ) 撤退後の事業展開 .................................................................. 180\n( 6 ) 変革が進む中小企業の海外事業活動 .......................................... 180\n2 展望: 中小企業が海外直接投資で発展するための課題 ........................ 181\n( 1 ) 進出前準備の重要性 ............................................................... 181\n( 2 ) 海外事業変革への取り組み: 現地市場開拓と撤退 ........................ 182\n( 3 ) 現地市場開拓における海外企業の活用 ....................................... 184\n( 4 ) 経営者の役割 ........................................................................ 186\n3 政策的含意 ................................................................................. 186\n4 課題 .......................................................................................... 188\n参考文献 ............................................................................................. 190\n参考資料 ............................................................................................. 199", "subitem_description_type": "Other"}]}, "item_113_description_25": {"attribute_name": "注記", "attribute_value_mlt": [{"subitem_description": "主指導教員 : 加藤秀雄 教授", "subitem_description_type": "Other"}]}, "item_113_description_33": {"attribute_name": "資源タイプ", "attribute_value_mlt": [{"subitem_description": "text", "subitem_description_type": "Other"}]}, "item_113_description_34": {"attribute_name": 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日本中小企業による海外現地市場開拓と撤退 : 海外直接投資の成果と課題
https://doi.org/10.24561/00010233
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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GD0000735.pdf (1.8 MB)
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2016-12-05 | |||||
タイトル | ||||||
言語 | ja | |||||
タイトル | 日本中小企業による海外現地市場開拓と撤退 : 海外直接投資の成果と課題 | |||||
言語 | ||||||
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資源タイプ | ||||||
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資源タイプ | doctoral thesis | |||||
ID登録 | ||||||
ID登録 | 10.24561/00010233 | |||||
ID登録タイプ | JaLC | |||||
アクセス権 | ||||||
アクセス権 | open access | |||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||
著者 |
丹下, 英明
× 丹下, 英明 |
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著者 所属 | ||||||
埼玉大学大学院経済科学研究科(博士後期課程)経済科学専攻 | ||||||
著者 所属(別言語) | ||||||
Graduate School of Economic Science, Saitama University | ||||||
書誌 | ||||||
収録物名 | 博士論文(埼玉大学大学院経済科学研究科(博士後期課程)) | |||||
書誌情報 |
発行日 2016 |
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出版者名 | ||||||
出版者 | 埼玉大学大学院経済科学研究科 | |||||
出版者名(別言語) | ||||||
出版者 | Graduate School of Economic Science, Saitama University | |||||
形態 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | xii, 210p | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第108号 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2016-03-24 | |||||
学位名 | ||||||
学位名 | 博士(経済学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||
学位授与機関識別子 | 12401 | |||||
学位授与機関名 | 埼玉大学 | |||||
抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 本稿の目的は、日本中小企業による海外進出後の事業展開について、その実態を詳細に分析するとともに、海外展開する中小企業の発展に向けた課題を明らかにすることである。そのために、直接投資によって海外進出した中小企業を分析対象とし、進出後の事業展開として、現地市場開拓と撤退に焦点を当てている。 第1章では、本研究の問題意識と分析対象を述べた上で、分析視角を提示した。 第2章では、中小企業の海外展開に関する先行研究を分析し、その意義と課題を明らかにした。特に、進出、拡大、撤退という海外直接投資プロセスのなかでも、① 拡大段階としての現地市場開拓に着目した研究の必要性、② 海外からの撤退に着目した研究の必要性、などを明らかにした。 第3章では、海外進出後の事業展開を分析する前段階として、中小企業の海外進出の動向を分析した。進出企業数の増加や市場開拓目的の増加など、中小企業の海外進出は変化している。また、進出前の準備をみると、進出年代が新しいほど、フィージビリティスタディ(F/S)や撤退基準の設定などを実施した割合が増加している。このことから、中小企業による海外進出は、進出年代が新しいほど、より計画的なものに変化していると結論付けた。こうした進出前準備のなかでも、F/S 実施の有無が、海外拠点の成果と関係していることも明らかにした。 第4章と第5章では、現地市場開拓について分析を行った。第4章では、中国市場を開拓した中小消費財メーカー3社の事例研究を行うとともに、それらから得られた結論を中国市場開拓から撤退した中小消費財メーカー2社の事例と比較することで、結論の妥当性を検討した。第5章では、中国において現地自動車メーカーとの取引を実現した中小自動車部品メーカー3 社の事例研究を行った。 第6章から第9章では、海外からの撤退に焦点を当てて分析を行った。第6章では、アンケートから中小企業による海外撤退の実態を定量的に分析した。第7章では、存続拠点と撤退拠点を含むアンケートを用いて、どのような要因が海外拠点の存続に影響しているのかを統計的に分析した。第8章では、海外からの撤退について、撤退拠点の成果に着目して分析を行った。第9章では、撤退後の事業展開についても分析を行うことで、海外拠点の成果と撤退について考察した。 第10章では、以上の分析を踏まえて、第1章で示した分析視角に基づき、本稿の結論を整理した。まず、現地市場開拓については、中小消費財メーカーと中小自動車部品メーカーの取り組みを比較した結果、次の結論を得た。第一に、進出後に事業目的が変化し、現地市場開拓に取り組んだ企業が多い。第二に、現地市場開拓を実現するうえでは、海外企業の活用が重要な役割を果たしている。活用の方法は、連携から合弁企業の設立、買収までさまざまみられた。第三に、現地市場に投入する製品をみると、先進国向けと同等品質の製品を投入している企業が多い。設計や仕様を変更し、先進国向けよりも品質を落とした製品を投入する企業もみられるが、こうした動きは主流とはなっていない。第四に、生産・調達体制をみると、中小消費財メーカーにおいては、進出当初に構築した生産・調達体制を活用する企業が多い。一方、中小自動車部品メーカーの場合は、投入製品によって生産・調達体制が異なっていた。先進国と同等品質の部品を供給する事例企業では、先進国製機械を活用することで、品質確保に努めつつ、低コストで生産する体制を構築している。低価格部品を供給した企業では、既にある海外製設備を活用したり、海外製材料を活用することで、コスト低減を実現している。 次に、撤退については、アンケートから次の結論を得た。第一に、中小企業の海外撤退数は、2000年代に入って増加しており、10年以降はさらに増加傾向にある。第二に、主な撤退理由は、「製品需要の不振」「現地パートナーとの不調和」「管理人材の確保困難」の3つである。大企業の撤退理由では、「組織再編・経営資源の見直し等に伴う拠点統廃合」が高い割合を占めていることを勘案すると、中小企業の海外撤退理由は、全般的には大企業とは異なる。第三に、中小企業は、撤退する際に、何らかの課題に直面したとする企業が多いものの、撤退する際に誰にも相談していない企業が多い。こうした点を改善することは今後の課題である。 海外拠点の存続要因については、次の結論を得た。① 海外拠点の業況が赤字であるほど、撤退が発生しやすいこと、② 進出時の出資比率が低いほど、撤退が発生しやすいこと、③ 現地の経営責任者が日本本社の役員・従業員であるほうが、撤退が発生しやすいことを明らかにした。ただし、事例研究を踏まえると、③ については、日本本社の役員・従業員だからというよりも、日本本社から派遣される役員や従業員の質が大きく影響している可能性がある。 海外直接投資の成果については、加藤(2011)の成果とアンケートを踏まえて、試算を行った。撤退後、企業存続困難となった先を海外拠点で成果を上げられなかった企業と仮定すると、海外拠点の約65% は成果を上げられていないとの結果を得た。こうした結果は、中小企業の海外直接投資が決して簡単ではないことを示しているものと考える。 一方で、「撤退は本当に失敗なのだろうか」という問題意識のもと、撤退拠点についても成果に着目して分析を行った。先行研究では、中小企業による海外撤退は「失敗事例」として分析されることが多い。だが、本稿の分析では、一定の成果をあげていたにもかかわらず撤退したとする海外拠点が4割存在することを明らかにした。こうした企業を具体的にみると、投資期間全体では成果は上げながらも、外部環境の変化を踏まえたうえで、撤退を主体的に選択している。 これらの分析結果を踏まえて、「撤退拠点の成果」を撤退分析に取り入れる必要性を指摘するとともに、成果をあげながらも海外から撤退することを「戦略的撤退」と定義し、撤退分析の枠組みを提示した。この枠組みに当てはめると、本稿では、中小企業においても戦略的撤退を行う企業が出てきていることを明らかにしたことになる。こうした中小企業の撤退理由をみると、中小企業全般の撤退理由とは異なっており、むしろ大企業の撤退理由に近い。このことは、中小企業においても、大企業と同様な撤退が出始めていることを示している。 撤退後の事業展開については、次の結論を得た。第一に、中小企業による海外撤退後の事業展開は、多様である。ある拠点からの撤退は、必ずしも海外事業からの撤退を意味しない。その後、新たに海外拠点を設置する企業もあれば、撤退した拠点をその後も生産委託先として活用する企業もみられる。第二に、撤退拠点で成果を上げられなかった企業も、撤退拠点で得た経験を別の海外拠点で活用することで、成果を上げている企業が多くみられる。こうした撤退経験のなかでは、日本本社による管理強化を図る企業が多い。 これらの分析からは、現地市場開拓に取り組んだり、撤退を行ったりするなど、中小企業が海外事業の変革を進めていることがわかる。海外展開を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、中小企業は今後、こうした海外事業の変革にますます取り組む必要があるだろう。 以上の結論を踏まえて、海外展開する中小企業の発展に向けた課題として、① 進出前準備の重要性、② 海外事業変革への取り組み、③ 現地市場開拓における海外企業の活用、④ 経営者の役割の4点を指摘した。また、今後の研究課題として、① 海外進出後の事業変革に関する多方面からの分析、② 海外企業の活用に焦点を当てた実態分析、③ 海外直接投資以外の海外展開形態との比較分析の3つを最後に示した。 |
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目次 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 目次 第1章 はじめに ................................................................................... 1 1 問題意識と分析対象 ........................................................................ 1 ( 1 ) 問題意識 ................................................................................. 1 ( 2 ) 分析対象 ................................................................................. 3 2 分析視角 ....................................................................................... 7 ( 1 ) 進出後の事業展開‐現地市場開拓と撤退‐ .................................... 7 ( 2 ) 海外拠点の存続要因 .................................................................. 8 ( 3 ) 海外直接投資の成果 .................................................................. 9 ( 4 ) 撤退後の事業展開 ..................................................................... 9 3 本稿の構成 ................................................................................... 10 第2章 先行研究 .................................................................................. 12 1 本章の目的 ................................................................................... 12 2 中小企業の海外展開に関する先行研究 ............................................... 12 ( 1 ) 海外展開プロセス .................................................................... 13 ( 2 ) 現地拠点の機能 ....................................................................... 14 ( 3 ) 海外展開の形態 ....................................................................... 16 ( 4 ) 日本国内への影響 .................................................................... 18 ( 5 ) 国際経営論との関係 ................................................................. 21 3 小括: 先行研究の意義と課題 ........................................................... 23 第3章 中小企業の海外進出動向 ............................................................. 24 1 本章の目的 ................................................................................... 24 2 各種データにみる中小企業の海外進出における近年の特徴 .................... 24 ( 1 ) 海外展開する中小企業は少数 ..................................................... 24 ( 2 ) 増加する中小企業の海外直接投資 ............................................... 25 ( 3 ) 市場開拓を目的とした海外直接投資の増加 ................................... 28 3 アンケートにみる海外進出前準備の変化 .............................................. 28 ( 1 ) データ ................................................................................... 28 ( 2 ) 進出前の準備にみる変化 ........................................................... 30 4 小括 ............................................................................................ 36 第4章 中小消費財メーカーによる中国市場開拓 ........................................ 37 1 本章の目的 ..................................................................................... 37 2 先行研究 ........................................................................................ 38 ( 1 ) 新市場開拓 ............................................................................. 38 ( 2 ) 海外市場開拓 .......................................................................... 38 ( 3 ) 中小消費財メーカーによる現地市場開拓 ...................................... 42 ( 4 ) 研究の視点と研究方法 .............................................................. 42 3 事例研究 ........................................................................................ 44 ( 1 ) A 社 ...................................................................................... 44 ( 2 ) B 社 ...................................................................................... 46 ( 3 ) C 社 ...................................................................................... 48 4 現地市場開拓にみられる特徴 ............................................................. 50 ( 1 ) 現地市場開拓に至る経緯 ........................................................... 50 ( 2 ) 製品 ...................................................................................... 52 ( 3 ) 販売体制 ................................................................................ 55 ( 4 ) 生産・調達体制 ....................................................................... 59 ( 5 ) 背景 ...................................................................................... 60 5 撤退事例による確認 ....................................................................... 61 ( 1 ) ターゲットの設定と投入製品、販売ノウハウに課題(D社) ........... 61 ( 2 ) 投入製品に課題(E社) ............................................................ 64 ( 3 ) 分析 ...................................................................................... 65 6 小括 .............................................................................................. 67 第5章 中小自動車部品メーカーによる中国市場開拓 .................................. 68 1 本章の目的 ................................................................................... 68 2 中国自動車市場の現況と日系自動車部品メーカーの動向 ....................... 69 ( 1 ) 中国自動車市場の現況 .............................................................. 69 ( 2 ) 中国における日系自動車部品メーカーの動向 ................................ 71 3 先行研究 ...................................................................................... 72 ( 1 ) 中国自動車メーカーにおける部品調達 ......................................... 72 ( 2 ) 中小部品メーカーによる現地市場開拓 ......................................... 74 ( 3 ) 研究の視点と研究方法 .............................................................. 75 4 事例研究 ...................................................................................... 76 ( 1 ) F 社 ....................................................................................... 76 ( 2 ) G 社 ...................................................................................... 78 ( 3 ) H 社 ...................................................................................... 80 5 現地市場開拓にみられる特徴 ........................................................... 83 ( 1 ) 現地市場開拓に至る経緯 ........................................................... 83 ( 2 ) 製品 ...................................................................................... 85 ( 3 ) 販売体制 ................................................................................ 87 ( 4 ) 生産・調達体制 ....................................................................... 89 ( 5 ) 背景 ...................................................................................... 91 6 小括 ............................................................................................ 94 第6章 中小企業の海外撤退- アンケートによる実態分析- ......................... 96 1 本章の目的 ................................................................................... 96 2 統計データにみる中小企業の海外撤退 ............................................... 96 ( 1 ) 各種統計データにおける制約の存在 ............................................ 96 ( 2 ) 増加傾向にある中小企業の海外撤退 ............................................ 98 ( 3 ) 大企業より高い撤退比率 ......................................................... 100 3 先行研究 .................................................................................... 101 4 アンケートにみる中小企業の海外撤退 ............................................. 103 ( 1 ) データ ................................................................................. 103 ( 2 ) 撤退拠点の概要 ..................................................................... 105 ( 3 ) 撤退の経緯 ........................................................................... 109 ( 4 ) 撤退時の課題と撤退完了の要因 ................................................ 111 ( 5 ) 進出前の取り組み .................................................................. 113 ( 6 ) 海外直接投資を成功に導く要因 ................................................ 116 5 小括 .......................................................................................... 117 第7章 中小企業の海外撤退に影響する要因は何か ................................... 118 1 本章の目的 ................................................................................. 118 2 先行研究 .................................................................................... 118 ( 1 ) 企業の海外撤退要因 ............................................................... 118 ( 2 ) 中小企業の海外撤退 ............................................................... 119 3 分析の概要と仮説 ........................................................................ 120 ( 1 ) 仮説 .................................................................................... 120 ( 2 ) データの概要と推計方法 ......................................................... 122 ( 3 ) 変数 .................................................................................... 122 4 推計結果と考察 ........................................................................... 125 5 小括 .......................................................................................... 130 第8章 海外直接投資の成果と撤退‐ 撤退は本当に失敗か- ....................... 132 1 本章の目的 ................................................................................. 132 2 アンケートにみる海外直接投資の成果 ............................................. 133 3 事例研究: 成果を上げながらも撤退した中小企業 .............................. 136 ( 1 ) 日本本社との関連性を考慮し撤退(I社) .................................. 136 ( 2 ) 撤退に向けて海外拠点の体制を整備(J社) ............................... 138 ( 3 ) 現地経営環境の変化を踏まえて撤退(K社) .............................. 141 ( 4 ) 合弁先の方針転換を踏まえて株式を売却(L社) ......................... 144 4 考察 .......................................................................................... 146 ( 1 ) なぜ成果をあげながらも撤退したのか ....................................... 146 ( 2 ) 成果を上げながら撤退できた要因は何か .................................... 150 ( 3 ) 撤退後に設置した海外拠点の成果と要因 .................................... 151 ( 4 ) 海外撤退を分析するための仮説的枠組み .................................... 153 5 小括 .......................................................................................... 155 第9章 撤退後の事業展開‐撤退経験活用の視点から- ............................. 157 1 本章の目的 ................................................................................. 157 2 アンケート ................................................................................. 157 ( 1 ) 撤退後の海外拠点との関係 ...................................................... 157 ( 2 ) 撤退経験の活用と海外拠点の成果 ............................................. 160 3 事例研究: 撤退後の事業展開 ......................................................... 163 ( 1 ) 日本本社による管理を強化(M社) .......................................... 163 ( 2 ) 合弁での失敗を踏まえ独資により再度進出(N社) ..................... 165 ( 3 ) 撤退後も生産委託先として当該拠点を活用(O社) ..................... 167 4 考察 .......................................................................................... 170 ( 1 ) 撤退後の海外事業との関係 ...................................................... 170 ( 2 ) 撤退経験の活用による成果 ...................................................... 171 5 小括 .......................................................................................... 173 第10章 結論 .................................................................................... 174 1 結論 .......................................................................................... 174 ( 1 ) 進出後の事業展開: 現地市場開拓の実態 .................................... 174 ( 2 ) 進出後の事業展開: 撤退の実態 ................................................ 177 ( 3 ) 海外拠点の存続要因 ............................................................... 178 ( 4 ) 海外直接投資の成果 ............................................................... 179 ( 5 ) 撤退後の事業展開 .................................................................. 180 ( 6 ) 変革が進む中小企業の海外事業活動 .......................................... 180 2 展望: 中小企業が海外直接投資で発展するための課題 ........................ 181 ( 1 ) 進出前準備の重要性 ............................................................... 181 ( 2 ) 海外事業変革への取り組み: 現地市場開拓と撤退 ........................ 182 ( 3 ) 現地市場開拓における海外企業の活用 ....................................... 184 ( 4 ) 経営者の役割 ........................................................................ 186 3 政策的含意 ................................................................................. 186 4 課題 .......................................................................................... 188 参考文献 ............................................................................................. 190 参考資料 ............................................................................................. 199 |
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注記 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 主指導教員 : 加藤秀雄 教授 | |||||
版 | ||||||
[出版社版] | ||||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | VoR | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 | |||||
資源タイプ | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | text | |||||
フォーマット | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | application/pdf | |||||
作成日 | ||||||
日付 | 2016-12-05 | |||||
日付タイプ | Created | |||||
アイテムID | ||||||
GD0000735 |