@phdthesis{oai:sucra.repo.nii.ac.jp:00010232, author = {平出, 美栄子}, month = {}, note = {xi, 210p, 助産師は,妊産婦の健康診査と出産介助,妊娠・出産・産褥,新生児・乳児期の各期のケア,相談,サポートを実践する専門職である。そして,わが国では,正常出産の取り扱いに限り,助産行為を目的とした「助産所(本稿では助産院)」を開業することが認められている。 かつて出産は,助産師(元の産婆,助産婦)の手によって,ほとんどが自宅か助産院(有床)で行われていた。しかし1960 年代以降,助産院出生数は,医療近代化の進展にともなって激減し,現在では,出産の99.1%は大学病院・病院・診療所で行われるようになっており,助産院での出産は0.8%にすぎず,自宅・その他が0.1%となっている。こうした状況の下で,助産院を開設する関係者は,助産院の維持・存続が可能かどうかに不安を抱えている。 助産院は,1948 年の「医療法」によって,大学病院・病院・診療所と同様に医療施設と位置づけられ,開業助産師は,助産業務と助産院の施設経営という二つの役割を持つようになった。こうしたなかで,助産院経営においては,ベッド数,広告,業務内容などが法的に規制され,また補助金制度によって自由な価格設定が制限されており,私企業のようなマーケティング活動を行うことは困難である。こうしたなかで,助産院において,いかに経営・マーケティングを有効に実施しうるかは,経営者である助産師の手腕にかかっているといえる。 本稿は,近年の開業助産院における出生数減少の理由を探ると同時に,こうした状況にありながらも,維持・存続ができている助産院は,どのような助産院経営・マーケティングが実践されているのか探求することを課題とする。 本研究は,定量的・定性的調査を通して,近年の助産院出生数の減少の原因及びその背景を探求し,さらに,成功している助産院の経営者をアントレプレナーと捉え,その活動の基盤に実践コミュニティの存在を確認することを通して,助産院経営・マーケティングの実態を把握することによって,今後の助産院経営・マーケティングについての示唆を得ることを目的としている。 定量的調査では,第1 に,出産施設の選択理由を知る目的として,消費者としての妊産婦を対象に,東京都内でのアンケート調査を実施し,第2 に,助産院の実態把握を目的として,全国助産院経営者を対象としてアンケート調査を実施した。 第1 の妊産婦へのアンケート調査では,出産施設の選択理由について質問し,その結果を大学病院・病院群,診療所群,助産院群の3 群で比較した。この調査の結果,妊産婦たちは,大学病院・病院群では,診療所群,助産院群に比べ,年齢(35 歳以上の高年初産婦)を気にして施設を選択する者が多いことが明らかとなった。現在,わが国の晩婚化,晩産化傾向は顕著であり,このままこの傾向が続けば,助産院を選択する妊産婦が更に減少することが明らかである。 また,大学病院・病院群,診療所群の妊産婦は,「医師の存在」,「医療規模」,「価格(特に妊婦健康診査補助券)」,「自宅近隣」,「豪華な食事」などを理由に施設を選択していた。この一方で,大学病院・病院群,診療所群を選択した妊産婦たちは,一般に助産院のサービス・ケア(製品)の特徴とされている,「健診が長く丁寧」,「助産師による健診」,「フリースタイル出産」,「家族立ち会い出産」,「産後母児同室」などで選択した者は少数であった。このことは,助産院が提供可能なケア・サービス(製品)と大学病院・病院・診療所を選択する妊婦のケア・サービス(製品)に対するニーズには乖離がみられる。こうした傾向が続けば,今後も助産院出生が漸減すると考えざるをえない。 次に,助産院経営者の全国調査では,1996 年・2000 年の調査結果と比較し考察した。その結果,次のことが明らかになった。 まず,助産院経営の寿命は短縮化傾向にある。現代の助産院経営者は,1996 年の調査結果に比べると,6 年程度遅く開業し,10 年程度早く退出している。また開業継続年数30 年以上の助産院は,1996 年の研究では48.2%であったが,2013 年では12.3%と漸減している。そして,82.3%の助産院が20 年以下の経営となっている。 次に,小規模助産院が増加しているという特徴がある。年間出生数49 件以下の助産院は,2000 年の調査では77 件であったが,2013 年の調査では122 件である。また,130 件以上を取り扱う助産院は,2000 年では12 件存在したが,2013 年では3 件へと減少している。しかし,こうした傾向にあっても,雇用人数は,常勤職員・パート職員ともに増加している。以上のような結果は,今後さらに助産院の経営が厳しくなることを推測させる。 助産院経営者は,助産院における近年の出生数減少の理由について,産婦人科診療ガイドライン(B 群溶血性連鎖球菌陽性妊婦の対応,妊産婦のリスク項目の増加など)・助産院業務ガイドラインの改定,医療連携の困難さ,東日本大震災の影響,高年産婦の増加,など外部環境からの原因を挙げている。統計と外部環境の変化を概観すると,法の改定,震災など外部環境に変化のあった年は,助産院の出生数減少の年に重なりあっている。 二つの定量的調査の結果は,①晩産化により市場が縮小傾向にあること,②助産院のサービス内容と消費者のニーズに乖離があること,③助産院経営に影響する外部環境の変化,④助産院経営者自身の高齢化,⑤出生数減少に対する対策が取られていない,などが挙げられた。これは助産院が今後も困難な状況にあることを示唆している。 以上のような背景を受け本稿では,助産院経営・マーケティングの手がかりを得る目的のために,二つのキー概念を適用し定性的調査を実施した。調査地は都内にあるM 助産院に限定した。 一つ目のキー概念は,助産院経営者(マーケター)の分析視角としてアントレプレナーシップ概念を用いた。理由は,M 助産院の事業内容に新規性があり先駆者的に取り組んでいる事業があること,出生数が常にトップクラスの件数を維持していること,その基盤にはM 助産院経営者がアントレプレナーシップを発揮させ,マーケティング活動が行われていると考えたためである。 だが,アントレプレナーは一人事業を遂行するわけではない。新規事業や革新的事業の発案・実施には,アントレプレナーを取り巻く社会的基盤があると思われる。そこで本稿では,近年,知識経営学において注目されている実践コミュニティ概念を採用した。これが二つ目のキー概念である。実践コミュニティは,学校,職場,家族など制度的な社会組織と同じではなく,人々がなんらかの実践を共有し相互関与している社会的グループのことである。この概念は,学習と実践がコミュニティの中でいかに構築されていくのかを,「相互関与」「共同の営み」「共有領域」の3 要素,実践コミュニティへの参加の形態などを用いて,実態を観察・理解しようとするツールである。 実態調査の結果は,アントレプレナーシップと実践コミュニティの構成と役割に注目して分析した。 まず,アントレプレナーと母親で構成された実践コミュニティである。この実践コミュニティの機能は,M 助産院のケア・サービス(製品)開発の基礎を成し,ケア・サービス(製品)の形態を拡大する役割である。 次に,アントレプレナーと助産師で構成された実践コミュニティである。この実践コミュニティの役割は,M 助産院のケア・サービス(製品)の質を維持・管理し,顧客に安定したケア・サービス(製品)を提供することである。アントレプレナーは,この実践コミュニティの存在によって,従来の助産院経営にはない新規クラスの企画・運営,地域支援活動などの事業を遂行し,助産院の維持・存続を為し得ていた。無形財であるサービス製品では,質管理が課題となるが,熟練助産師であるM 助産院経営者の技と暗黙知は,実践コミュニティの存在によって助産師へ伝承され,質の高い助産技術へと向かわせ,M 助産院経営におけるケア・サービス(製品)の安定化に繋がり,ケア・サービス(製品)戦略の成功に貢献していた。 調査では,実践コミュニティの「共有領域」として「産婦に寄り添う三原則,産婦の汗の変化の観察,教育教材・テキスト」など,M 助産院独自の表現方法や教育教材が確認出来た。これらの内容と活用によって,実践コミュニティ内での意味の交渉が行われ,助産の実践に独自性を保っていた。 最後は,アントレプレナーと母親・助産師・その他の職種などを構成とした実践コミュニティである。この実践コミュニティの役割は,幼児から産後の母親までの包括的・継続的なサービス事業を成立させるM 助産院バリューチェーンの創造と継続であった。アントレプレナーはこれを統一し,連携を保ちながら,M 助産院の事業を維持・継続している。 M 助産院の調査によって得られた結果は,アントレプレナーの能力は,実践コミュニティを社会的基盤として活用し,実践コミュニティと共に助産院事業を創造することであった。助産院経営・マーケティングには,アントレプレナーシップとして実践コミュニティを活用することが有効である。 助産院経営・マーケティングの研究はまだ手つかずの分野であり,先行研究も限定されている。そのような中,本研究の定量的調査によって,助産院は今後も厳しい状況に置かれることが示唆されこと,だが定性的調査では,実践コミュニティの存在によってアントレプレナーシップが発揮することが明らかとなり,さらに,助産院継続には多様な実践コミュニティの存在と連携が有効であるという結果が得られた。この二つのキー概念を実践の場で応用していくことで今後の助産院経営・マーケティングへの展望が開けるものと考える。, 序章 1 1 研究の背景と問題意識…1 2 研究の目的と意義…6 3 論文構成…6 第1 章 助産師と助産院の概要 8 1 はじめに…8 2 助産師の発達と衰退の過程…8 1)産婆の始動…8 2) 産婆から助産婦へ…9 3) 助産師活動の衰退…9 3 助産とは…10 1)助産の概念…10 4 開業助産院とは…10 1) 助産院の法的根拠…10 2) 助産院の定義と業務内容…11 3) 助産院の広告…11 4) 助産院業務の特色…12 第2 章 全国開業助産院と消費者(妊産婦)の動向 13 1 はじめに…13 2 消費者(妊産婦)の動向…17 1)消費者(妊産婦)調査の目的…17 2)調査方法…18 3)結果…20 4)出産施設選択時に影響を及ぼす要因…22 5)考察…25 6)小括…28 3 全国開業助産院の実態…30 1)全国開業助産院調査の目的…30 2)調査方法…31 3)結果…31 4)考察…38 5)小括…41 第3 章 助産院経営・マーケティングの概観 43 1 はじめに…43 2 助産院マーケティングとは…44 1)非営利組織のマーケティング…44 2)日本の医療マーケティング研究の潮流…45 3)助産院マーケティング研究の提案…47 3 助産院マーケティングの独自性…47 1)医療改革とガイドライン…48 2)助産院の規模と市場…49 3)助産院マーケティングの4P…52 4)価格(Price)…53 5)場所(Place)…56 6)広告(Promotion)…57 7)製品(Product)…57 8)助産院製品の形態…58 9)製品の多様性…59 10)助産院の「消費者志向」…60 4 助産院バリューチェーン…61 第4 章 助産院マーケティングにおけるアントレプレナーシップとその基盤としての実践コミュニティ 63 1 はじめに…63 2 アントレプレナーシップ…63 1) アントレプレナーの概念…63 2) アントレプレナーシップの概念…66 3) 「企業者精神」としてのアントレプレナーシップ…66 4) 「企業者行動」としてのアントレプレナーシップ…69 5) アントレプレナーシップ研究の動向…69 6) 近年のアントレプレナーシップ研究…70 3 実践コミュニティ(communities of practice)…73 1)実践コミュニティの概念…73 2)「実践コミュニティ」概念生成の経緯…73 3)「状況論」-状況的学習論…74 4)実践コミュニティの邦訳…74 5)実践とは…75 6)コミュニティとは…75 4 実践コミュニティの概念とその他の関連概念…76 1)実践コミュニティの構成要素…76 2)正統的周辺参加 -実践コミュニティへの参加の形態…79 3)文化的透明性…80 4)意味の交渉…81 5 実践コミュニティ論への批判的議論…82 6 経営学研究における実践コミュニティ概念の可能性…83 1)「暗黙知」と「形式知」…84 2)実践コミュニティ概念を適用する視点…85 7 小括…87 第5 章 M 助産院の経営・マーケティングの実態 88 1 はじめに…88 2 調査概要…89 1)調査対象について…89 2)M 助産院概要…90 3)M 助産院出生統計…92 3 調査の分析視角…93 4 アントレプレナーと妊産婦の実践コミュニティ…95 1)消費者(妊産婦)とアントレプレナーの実践コミュニティ形成…95 2)施設の創造…96 3)共有領域の内容…97 4)熟練と伝承…98 5 社会活動と地域貢献のためのアントレプレナーシップと実践コミュニティ…100 1)問題の認知と解決…100 2)男性助産師反対運動の実践コミュニティ…101 3)地域に開かれた施設に向けての実践コミュニティ…105 6 助産活動におけるアントレプレナーシップと実践コミュニティ…107 1)助産師実践コミュニティの形成…109 2)助産師実践コミュニティの「共同の営み―内診を少なくする助産技術」」…110 3)助産技術における表現の独自性―擬態語による意味の交渉…111 4)助産技術における表現の独自性「別世界に行く」…112 5)「発汗部位の変化」という「共有領域」の表現と意味の交渉…113 7 M 助産院のサービス(製品)戦略に向けたアントレプレナーシップと実践コミュニティ…114 1)産婦を「一人にしない」というサービス(製品)…114 2)ルーティン…116 3)サービス(製品)のイメージ化…116 4)SECI モデルの方向と動因…117 8 助産技術伝承のための実践コミュニティ…120 1)実技講演会…120 2)実技講演会に向けた物象化…120 3)実技講演会の発展…121 4)「フィーリングバース」という「意味の交渉」…122 5)教材,教本販売の事業化…123 6)セミナー開催の地域の拡大…124 7)助産技術における「技術の文脈依存性」と漸次的イノベーション…125 9 M 助産院のバリューチェーン…127 1)幼児から始まる命の教育…128 2)アントレプレナーシップと実践コミュニティの役割…129 3)独創的出産準備クラスの創造…130 4)産褥入院中のケア・サービス…131 5)入院中のサービス…132 6)退院後の母子支援…132 7)M 助産院バリューチェーンのまとめ…133 10 小括…134 終章 137 参考文献 142 巻末資料 168 インタビュー内容 謝辞, 主指導教員 : 薄井和夫教授, text, application/pdf}, school = {埼玉大学}, title = {開業助産院における経営・マーケティングの研究 : 助産院と消費者としての妊産婦の定量的調査および実践コミュニティ概念に基づくアントレプレナーシップの実態分析}, year = {2015}, yomi = {ヒラデ, ミエコ} }