@misc{oai:sucra.repo.nii.ac.jp:00010259, author = {鈴木, 嘉昭}, month = {}, note = {イオンビーム照射技術は半導体への添加法として確立した技術である。この技術は近年、材料表面の改質技術として応用され、金属、セラミックス、ガラス、高分子材料の改質と多岐にわたり用いられている。 高分子材料のイオンビーム照射による改質に関しては、近年、種々の研究が開始されはしたものの、イオンビームと高分子材料との相互作用の解析はようやく基礎実験が行われ始めた段階に留まっている。イオンビームと固体との相互作用に関する理論的計算は1963年にJ. Lindhard, M. Scharff, H. E. Schittらが提唱したLSS 理論が実験値によく一致することが示されている。多くの高分子材料は結晶構造を持たず、非晶質構造を示す。これら構造はチャンネリング現象を考慮する必要がなく、イオンビームとの相互作用を解析する上で、適した材料であると考えられる。反面、高分子材料は熱的安定性が低く、高エネルギー、高密度の粒子線に対して、不適であるとも考えられている。 イオンビームの高分子材料への照射によって高分子材料は分解が生じ、またイオンのドーピング効果によって新たな結合が生じることか予想される。またこの過程は非熱平衡下での反応である。イオンビームが励起する非安定状態とイオンの添加効果を組み合わせることを材料設計とし, 新物質、新機能性材料の形成が考えられる。本研究ではこれらの概念に基づき種々のイオンビームと高分子材料の相互作周を解析し、高分子材料(ポリシメチルシロキサン、ポリスチレン、セグメント化ポリウレタン)のイオンビーム照射による構造変化、表面特性を解析すると共に、生体適合性(血清適合性、細胞適合性)材料への応用に関して検討した。 第I章 序論 イオンビーム照射による材料改質に関する歴史的背景、動向について紹介し、高分子材料への現在までの研究および本研究の目的、意義について述べる。 第II章 イオンビーム照射した高分子材料の深さ方向濃度分布 イオンビーム照射は非熱平衡下で粒子を添加する方法である。照射イオンの飛程理論についてはLLS理論が実験値に一致することが示されている。本章ではイオンビーム照射した高分子材料(ポリジメチルシロキサン) の深さ方向濃度分布に関して、理論計算結果および表面分析装置による実験結果との比較検討を行った。 理論的には照射されたイオンは母材中でガウス分布を示す。イオンビーム照射中、母材に打ち込まれたイオンはガウス分布に従って存在すると予想される。しかしながら実際、照射イオンの深さ方向濃度分布は照射イオンの移動が生じ、理論計算どうりには実測されないものもある。 酸素、窒素イオン注入に代表されるようにイオンビーム照射後、母材中で周囲の原子、あるいは分子と結合を生じる場合、照射イオンはその位置で留まる。アルゴンなどの希ガスイオンの場合、自らの安定性から周囲原子、分子との結合は生ぜず、単体で存在しているか、あるいは照射層からの移動が生じ、経時変化を生じ、ガウス分布を示さないと考えられる。希ガスイオン単体で存在する場合は、検出方法によって、結果にかなりの違いが観測される。 X 線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES) では表面スパッターの後、深さ方向濃度分布を測定するために、スパッター時に離脱する照射希ガスイオンの検出は不可能となる。一方、二次電子質量分析法 (SIMS) による測定では表面をスパッターすると同時に検出するため、この単体状態の希ガスイオンの検出が可能となる。 ラザフォード後方散乱法(RBS) による深さ方向濃度分布の測定では原理的に深さ方向の情報を得るためのスパッター等の材料への侵襲を伴わないという利点がある。現在、この深さ方向濃度分布はAES、XPSあるいはRBS によって測定することが主流となっている。 しかしながらこれらの分析法はそれぞれ長所、短所を有し、深さ方向濃度分布に加え、目的に応じた分析法の選択が必要である。 とりわけ水素の濃度分布測定に対してはSIMSを除いては無力であり、水素を含む高分子材料に対しては核反応解析法よる構造解析が望まれる。 SLMSによる水素濃度の測定に際しても、最表面の情報は信頼性に欠けるため、赤外分光法などを併用した分析結果を基にした考察が必要である。 照射イオンが母材中で結合を生じて、ガウス分布を示す場合、母材に対して照射損傷と同時にイオンのドービング効果が生じる。希ガスイオンに見られるように母材からの離脱が生じる場合、照射損傷のみが生じる。これらはイオンビームと高分子材料の相互作用を理解する上で、非常に有用な現象である。希ガスイオンの照射は主に照射損傷効果が生じ、その他のイオンの照射は照射損傷効果と共にドーピング効果が生じる。材料に与えるこれらの照射損傷効果とドーピング効果を比較検討するには、希ガスイオンと質量数の近接する原子あるいは分子の照射によって解析できると考えられた。 第III章 イオンビーム照射した高分子の表層物性 入射イオンは与えられた運動エネルギーを持ち、試料最表面に最高スピードで衝突する。イオンは衝突を繰り返し、その都度、エネルギーを減少しながら突き進むが、この現象は、入射イオンが試料に与えるエネルギー量が、試料表面から深さ方向に対して異なることを意味する。この場合、イオンの分布はガウス分布をとり、照射損傷も深さ方向で分布を生じる。 この照射イオンの分布と照射損傷の分布は一致せず、通常照射損傷の最大値は注入元素最大濃度位置より若干表面側に位置する。即ち、注入試料は表面から結合切断量、官能基の種類、官能基の生成量および添加元素量が深さと共に変化する材料となる。 本章ではポリジメチルシロキサン, ポリスチレン、セグメント化ポリウレタンに種々のイオンを照射し、高分子構造の分解、官能基の生成などの物性変化についての解析を行った。 イオンビームの照射によるポリシメチルシロキサンのシロキサン結合、メチル基の分解量は加速エネルギーの増加に伴い、分解量の増加が観測された。照射量の増加に対する結合の分解量は、メチル基は照射量の増加と共に分解量も増加した。一方、シロキサン結合の分解量は加速エネルギーのしきい値が存在し、ある一定の加速エネルギーを越えない限り、照射量の増加に伴う切断量の増加は観測されなかった。イオンビーム照射による生成官能基には、照射損傷効果により生成する官能基とドーピング効果により生成する官能基が観測された。 イオンビーム照射による高分子材料表層の炭化現象が観測された。イオンビーム照射したポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、セグメント化ポリウレタン表層は共通して、アモルファスカーボン、不規則性グラファイト型カーボンの生成が観測された。 イオンビーム照射による高分子結合の切断量、生成官能基とイオン種の関係は、母材と照射イオンの組み合わせによって変化が観測された。イオンビーム照射により生じる炭化層には、共通した炭素構造が観測され、高エネルギーの荷電粒子の照射による高分子の分解後の炭化現象はポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、セグメント化ポリウレタンで共通性が見られた。 第IV章 イオンビー・ム照射による高分子材料の親水化 疎水性高分子材料を親水化することによって、表面エネルギーの観点から、材料表面で起こる生体反応を制御する方法は古くから提唱されている。本章ではイオンビーム照射による高分子材料の親水性の制御を目的に行った。 ポリジメチルシロキサンの親水化に関しては、イオンビーム照射直後の試料の水に対する接触角が照射イオンの質量数の増加と共に減少を示した。この照射イオンビームの質量数の増加に伴う接触角の減少は、衝突課程における核阻止能の効果で官能基の生成が増加したためと思われた。 ポリスチレン(PS) の親水化については、Ne+、Na+イオンビーム照射したPSは水に対する接触角がいずれも減少を示したが、特にNa+イオンビーム照射では拡張ぬれを生じ、かつ大気中に保存しても経時変化を生じなかった。照射試料には種々の官能基の生成が観測され、また結合の切断も観測されるが、接触角の低下が著しいNa+照射試料ではOH基の生成が顕著であった。しかしながらNa+イオンビーム照射(加速エネルギー50 keV、照射量1×10[17] 10ns/cm[2])した試料では、カルボニル基、C-C、C-O、アモルファスカーボンの生成量、および脂肪族に対する芳香族のスペクトル面積強度比はNe+イオンビーム照射試料と顕著な差は観測されなかった。 XPSによる分析結果は、Na+イオンビーム照射試料では加速エネルギーの低下と共に表面でのNaの存在比が増加することを示したことから、Na+イオンビーム照射によるPS 表面の親水化、およびその継続性(非経時変化)はNa 自体のドーピング効果によってもたらされるものと考えられた。 第V章 イオンビーム照射したポリジメチルシロキサンの抗血栓性 イオンビーム照射によってポリジメチルシロキサンの抗血栓性の改善を試みた。 ポリジメチルシロキサンに種々のイオンビームを照射し、血小板の集積量および抗血栓性の評価を行った。 イオンビーム照射したポリジメチルシロキサンをラットの静脈内に留置(留置期間2日) した結果、試料表面、上行大静脈(SVC)、心臓、腎臓、肝臓、牌臓への血小板の集積は減少する傾向を示した。雑種成犬下大静脈留置法による抗血栓性評価から、本実験で用いたイオン種ではNe+、Ar+、Kr+等の希ガスイオンビーム照射試料の抗血栓性は極めて良好な成績を与えた。 またこれらイオンビーム照射したポリジメチルシロキサンの抗血栓性の向上は、留置初期における血小板の集積の抑制効果によるものと考えられたが、イオンビーム照射した試料表面の物理・化学的性質とこれら血小板の集積比および抗血栓性との明確な相関関係は得られなかった。 第VI章 イオンビーム照射した高分子材料への細胞の粘着 イオンビームを高分子材料に照射することによって細胞粘着性表面の形成を試みた。イオンビーム照射によってポリスチレンへの細胞粘着性は向上し、またセグメントにポリウレタンへの細胞粘着性が生じた。イオンビーム照射したポリスチレンおよびセグメント化ポリウレタン表層には種々の官能基の生成が観測され、また結合の切断も観測されたが、これらは照射するイオン種に依存した。ラマン分光分析により、イオンビーム照射したポリスチレンおよびセグメント化ポリウレタン表層は、類似の炭素構造を有するものと考えられ、この構造が血管内皮細胞の粘着性の向上に寄与したものと考えられる。 生体高分子材料(コラーゲン、ゼラチン)へのイオンビーム照射によって材料の持つ機能の一部を破壊することによって、材料表面と細胞との相互作用を制御することを試みた。コラーゲン、ゼラチンのイオンビーム照射部への細胞粘着阻害が観測された。表層分子の破壊に関しては、低照射領域での制御性が問題となるが、イオン注入法の大きな利点としてイオンビームの制御性の良さが挙げられ、このイオン注入法の高い制御性によって、生体高分子材料の多くの機能発現部位を選択的に分解させ、目的の機能のみを残存させることによって、細胞非粘着面の形成が可能であると考えられた。 第VII章 結章 高分子材料(ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、セグメント化ポリウレタン等)へのイオンビーム照射による生体適合性材料、親水性表面の形成に関する実験結果を総括した。, 指導教授 : 飯塚哲太郎 客員教授, text, application/pdf}, title = {イオンビ-ム照射による高分子材料の生体適合性材料への応用に関する研究}, year = {1994}, yomi = {スズキ, ヨシアキ} }