@misc{oai:sucra.repo.nii.ac.jp:00010264, author = {根本, 直人}, month = {}, note = {進化分子工学が明らかにした進化する高分子系の条件は、①開放系、②自己増穂、③突然変異、④適切な生体高分子の適応度の地形、⑤遺伝子型と表現型の対応付け戦略の存在、である。本研究は、この⑤に注目し、生命の進化史を捉え直すとともに、この工学を発展させる試みをした。進化分子工学における対応付け戦略は、遺伝子型と表現型が同一分子上に存在するリボザイム型から、単純に結合したウイルス型を経て、一つの袋に入った細胞型へと、単純なものから順に成功をおさめている。これを既存の生命の起源論と比較した場合、リボザイム型に対応したRNAワールド仮説は提案されているが、ウイルス型の対応付け戦略をとるウイルス型生命体という概念は存在せず、いわゆる原始細胞という細胞型戦略をとる生命体のみが論じられている。これは、ウイルスは細胞に寄生する病原体であるという概念が支配的であっためと思われる。そこでウイルス型生命体を上記のように進化的側面から定義した場合の初期コード化分子進化において果たす役割を理論的に考察した。また、淘汰速度の比較から細胞型の問題点を理論的に検討した。最後に、これらの研究から明らかにされたウイルス型戦略分子の有用性を、in vitro Virusと称する無細胞蛋白質合成系を使った実験系で実現すべく、合成された蛋白とそれをコードするRNAの結合法の検討を行なった。 I. 翻訳のある分子進化の初期段階におけるウイルス型戦略 進化分子工学によって、RNAのライゲーション反応を含む様々な機能か明らかにされ、また、リボゾームの機能もRNAが担っていることが示唆されたことから、RNAワールド仮説はより強固になった。しかし、RNAワールドから翻訳系の成立に関しては未だ解決には至っていない。この中で、ハイパーサイクル理論は、限られた複製忠実度のもとでの情報蓄積や遺伝コードの普遍性に関し合理的に説明したが、複製系や翻訳系自体の漸進的進化に困難があった。Eigenは、このハイパーサイクルが遺伝子型と表現型の対応付けのために細胞様の袋に入ると考えた。われわれは、これに対しウイルス型の戦略をとると仮定し、最初のコード化されたタンパクは、レプリカーゼ・リボザイムの補因子として出現するとした。ハイパーサイクルの式に、新たに「ウイルス項」を導入し、シミュレーションをおこなった結果、次のような知見を得た。①発生したウイルス型分子が、ハイパーサイクルの中心概念である自分自身より他のメンバーをより多く複製するという性質を持つならば、レプリカーゼ・リボザイムの複製効率の1/ 10[3]以下でも、安定に存在し続ける。② ウイルス型分子はハイパーサイクル内で漸進的に、その複製機能や翻訳機能を進化させると同時に、それらの共進化を可能にする。③ ウイルス型分子がハイパーサイクルに複数存在する場合、同一の機能に対し加算的に働くかどうかで、共存するか、競争的排除か起るかが決定される。④ ウイルス型分子が漸進的に進化し、複製系と翻訳系か機能分化するモデルか可能である。本モデルにおける前提「RNAワールド末期におけるウイルス型分子の発生」に都合のよいデータか、進化分子工学の最近の成果から得られた。RNAワールド末期にウイルス型分子が複製・翻訳系を十分に進化させた後、細胞が可能となり多様な表現型を獲得した可能性がある。すなわち、virus-early/cell-lateモデルが提案できた。 II. 対応付け戦略における細胞型の問題点 前章の結果は、cell-early/virus-lateモデルを否定するものではない。そこで、ウイルス型と細胞型が同時に存在した場合に、その機能を最適化する速度を比較してみた。極めて単純なモデルとして、複製・翻訳機能をもつタンパクとRNAからなる、ウイルス型生命体、細胞型生命体を考え、それらが同数存在する2つのフローリアクターを考える。それぞれに有利突然変異体が生じた場合、それが野生型と個体群置換を起す時間を比較した。原始細胞のモデルは、ゲノムの数が元の2倍になったとき物理的に分裂すると仮定し、このような細胞の細胞内化学と細胞外化学の考察から、遺伝子型と表現型の対応付けに関する細胞型戦略の問題点として、(1)平均化効果(2)偏倚効果、(3)ランダム複製効果、の3つがあることがわかった。特に、(3)の効果がゲノムのセグメント化でセグメント数の2乗で不利に作用し、重大であった。この困難を乗り越えるためには、複製忠実度をあげ、ゲノムの1本化が必要である。そのためには、ウイルス型分子が原始細胞より先に生じ、複製忠実度を進化させることが最も有効な手段となる。つまり、細胞型よりウイルス型が先に生じる理論的根拠が示された。 III. 無細胞蛋白合成系中で合成された蛋白とそれをコードするRNAの結合法の実現に向けて: in vitro Virusへのアプローチ 前章でウイルス型戦略の有利性が示され、また、ファージ・ディスプレイ法のようにすでに成功している進化分子工学の例がある。しかし、現在のウイルスを利用した対応付け戟略は、宿主細胞によって発現される蛋白の量や種類が制限される。探査できる配列空間の大きさが重要な意味をもつ進化分子工学において、この問題は乗り越えなくてはならない。そこで無細胞蛋白合成系を利用し、"in vitro Virus''と称する試験管内でウイルス型分子を発生する方法を提案した。すでに、ビオチン様ペプチドとアビジンを利用して結合する方法などが検討されているが、共有結合ではないために選択の段階で制限を受ける。そこで、mRNAと伸長中のペプチドを直接、リボゾーム上で結合する方法を提案した。これは、終止コドンに対応したsuptRNAをmRNAの3'末端に接続しておき、このsuptRNA部分が合成を終えたペプチドのC末端と共有結合しウイルス型分子となる。このプロセスで最も重要な5'側が伸びたsuptRNAかリボゾームのAサイトにはいり、Pサイトにある伸長中のペプチドを受け取るかどうかを検討した。まず、5'側か伸びたsuptRNAはアミノアシル・シンテターゼによって、intactなものの20%程度アミノアシル化されることがわかった。このsuptRNAをそのまま、無細胞翻訳系に投入し、Aサイトへの取り込みを調べたところ、イメージアナライザの測定限界以下であった。これは、suptRNA部分がアミノアシル化の際にはintactなtRNAと競合し、Aサイトへの取り込みの際には、Release factorとの競合があるためと思われる。, 主指導教官 : 伏見譲, text, application/pdf}, title = {遺伝子型/表現型対応付けにおけるウイルス型戦略の研究}, year = {1996}, yomi = {ネモト, ナオト} }