@phdthesis{oai:sucra.repo.nii.ac.jp:00010307, author = {髙橋, 淳}, month = {}, note = {101p, 日本は世界でも有数の長寿国であり、更に高齢化が進むと予測されている。このような状況において、単なる寿命の延長ではなく、健康で支障なく日常生活を送れる期間、いわゆる「健康寿命」を伸ばすことが強く望まれている。健康寿命を延長するためには、がん、脳卒中、心臓病や認知症などの慢性疾患に対する予防対策が必要である。緑茶(Camellia sinensis)は日本人が日常的に飲用する飲み物であるが、がんやアルツハイマー病などのいろいろな慢性疾患に対する予防効果が認められており、健康寿命の延長に役立つ飲み物として期待されている。緑茶生産に関わる研究者として、緑茶成分の慢性疾患に対する予防効果を科学的に解明することは重要な課題である。本研究では、緑茶カテキンである(-)-epigallocatechin gallate (EGCG)と緑茶香気成分の2つの緑茶成分を用いて、がんとアルツハイマー病を対象とし、下記の2つの課題で基礎研究を行った。 1.緑茶カテキンによる肺がん細胞の硬化作用とがん転移抑制機構  緑茶、および、緑茶カテキン(EGCG)のがん予防効果は、基礎研究と臨床第Ⅱ相試験で証明されているが、さらに、がん転移抑制効果を持つことが動物実験で報告されている。EGCG による転移抑制機構を明らかにすることを目的に本研究を行った。最近、がん細胞の弾性はがんの転移に関与する新しい物理学的指標として注目されている。この細胞弾性の解析と分子生物学的アプローチによって、EGCG の転移抑制機構を明らかにできると考えた。肺がんはがんの死因第一位であり、転移率が高いので本研究では肺がん細胞に対する効果を検討した。  始めに肺がん細胞株6種類(腺がんA549, H322、扁平上皮がんH1703, LC-AI、大細胞がんH1299, Lu99)について細胞弾性を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。細胞弾性を示すヤング率はA549:2.71 kPa、 H322:3.01 kPa、H1703:3.18 kPa、LC-AI:1.44 kPa、H1299:1.75 kPa、Lu99:1.66 kPa であり、ヤング率が2.5 kPa 以上の硬い細胞と1.8 kPa 以下の軟らかい細胞に分類できた。次に、これらの肺がん細胞の運動能をwound healing 法とtranswell 法で測定し、小さいヤング率の3種の肺がん細胞は、大きいヤング率の3種の肺がん細胞に比べ、高い運動能を示すことを見出した。運動能はがん転移能を反映するので、転移能の高い細胞は小さいヤング率、(弱い弾性)を示すことが明らかとなった。次に、EGCGを転移能の高いH1299 とLu99 細胞に処理し、細胞弾性の変化と運動能の抑制効果を検討した。おもしろいことに、50μM EGCG は2 つの肺がん細胞のヤング率を約2倍増加(細胞を硬化)し、これに伴って、運動能を抑制した。がん転移において、上皮・間葉転換(EMT)が生じてがん細胞が高い運動能を獲得することが報告されている。事実、wound healing 法で移動先端にある細胞では、EMT 関連タンパク質であるvimentin とSlug の発現が特異的に亢進していた。この時、EGCG 処理はこれらのタンパク質発現を抑制した。次に、作用機構を明らかにするため、細胞膜の構成を変化させるmethyl-β-cyclodextrin(MβCD)を処理し、同様な効果が得られるか検討した。MβCD(10 mM)の処理は細胞を硬化し、wound healing 法における移動先端の細胞でのEMT 関連タンパク質の発現と運動能を抑制した。これらの結果から、EGCG が細胞膜を硬く変化させ、その結果シグナル伝達を抑制してEMT 関連タンパク質の発現を抑制することにより、運動能を抑制することが明らかとなった。 2.抹茶様香気画分による線虫に対するヒト型アミロイドβ42 毒性の抑制  アルツハイマー病(AD)の患者は、日本ではおよそ200万人いると推定されており、AD の予防や進行遅延のための新しい方法の開発は緊急の課題である。AD はアミロイドβ ペプチド(Aβ42)が脳に蓄積し、神経細胞に対して毒性を示し発症すると理解されている。最近、緑茶カテキンがAβ42 の毒性を抑制することが報告され、現在、ドイツでは緑茶カテキンによるアルツハイマー病の臨床介入試験が行われている。  一方、緑茶カテキン以外の機能性成分として緑茶香気成分が注目されている。これまで緑茶香気の成分分析は行われているが、その機能性は明らかではない。本研究では、緑茶特有の香気を示す「抹茶様香気画分」を長谷川准教授らとの共同研究で分画し、ヒト型Aβ42 遺伝子を導入した温度感受性線虫CL4176 を用い、Aβ42毒性の抑制効果を検討した。香気画分は次のような手順で得た。茶業研究所で生産した茶葉をhexane で抽出した「ヘキサン抽出物」を得て、更にクーゲルローア蒸留によって「焙じ香気画分」と「抹茶様香気画分」に分画し、シリカゲルカラムで「抹茶様香気画分」を更に分画したフラクションとして得た。Aβ42 の毒性抑制は線虫のパラリシス誘導の抑制と寿命期間の延長で評価した。パラリシスはCL4176 の3齢幼虫を非許容温度25℃に移した後20時間後から始まり28時間後にはほぼ100%の線虫で認められる。100 μg/mlの「抹茶様香気画分」は有意にパラリシスの発生を遅延し、発生率を抑制した。更にシリカゲルカラム精製により得られた抹茶様香気を有するフラクション10が特異的にパラリシスを抑制した。次に、CL4176 のyoung adult を25℃に移すとパラリシスは生じず、寿命が短縮される。この系で検討した結果、「抹茶様香気画分」のみが、有意な寿命延長効果を示した。  Aβ42 毒性は、Aβ42 の凝集によって生じる酸化ストレスが関与することが報告されているので抗酸化能をβ‐carotene 退色法で検討した。「抹茶様香気画分」が他の画分に比べて強い抗酸化能を示し、Aβ42 毒性の抑制活性と良く一致した。  緑茶特有の香気成分として「抹茶様香気画分」を分画し、これにAβ42 毒性を抑制する活性があることを始めて見出した。  以上の結果は、緑茶ががんやアルツハイマー病の進展を予防して健康寿命を伸ばす効果的な飲み物であることを支持するものである。, 【要旨】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 【目次】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 【序論】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第一章 緑茶カテキンによる肺がん細胞の硬化作用と転移抑制機構・14 【緒言】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 【材料と方法】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 <細胞>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 <細胞培養液>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 <培養条件>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 <試薬>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 <方法>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 Wound healing 法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 Transwell 法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 原子間力顕微鏡(AFM)による細胞弾性測定・・・・・・・・・・・20 免疫細胞染色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 ウエスタンブロット解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 Fluorescent Ubiqutination-based Cell Cycle Indicator(Fucci)/H1299 細胞の樹立・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 【結果】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 1. 肺がん細胞の細胞弾性と運動能との関連・・・・・・・・・・・・23 2. EGCG による肺がん細胞の運動能抑制・・・・・・・・・・・・・24 3. EGCG による細胞弾性の硬化作用・・・・・・・・・・・・・・・24 4. 細胞周期と細胞弾性との関連性・・・・・・・・・・・・・・・・25 5. EGCG によるEMT 関連タンパク質の発現抑制・・・・・・・・・26 6. MβCD による細胞弾性の硬化作用および運動能とEMT 関連タンパク 質発現の抑制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 【考察】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 第二章 抹茶様香気画分による線虫に対するヒト型アミロイドβ42 毒性 の抑制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 【緒言】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 【材料と方法】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 <線虫 Caenorhabditis elegans >・・・・・・・・・・・・・・・35 <試薬>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 <飼育および同調>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 <方法>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 緑茶香気成分群の抽出および分画・・・・・・・・・・・・・・・・36 抹茶様香気画分の還元・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 CL4176 におけるヒト型アミロイドβ42(Aβ42)遺伝子の発現解析・・38 化学走性測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 パラリシス誘導によるAβ42 毒性試験・・・・・・・・・・・・・・41 寿命測定によるAβ42 毒性試験・・・・・・・・・・・・・・・・・41 β‐carotene 退色法による抗酸化能の評価・・・・・・・・・・・・42 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるカテキン類およびcaffeine の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 ガスクロマトグラフィー‐マススペクトロメトリー(GC-MS)およびガ スクロマトグラフィー‐オルファクトメーター(GC-O)分析による香 気成分の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 核磁気共鳴装置(NMR)による分析・・・・・・・・・・・・・・・44 ウエスタンブロットによるAβ42 凝集解析・・・・・・・・・・・・・44 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 【結果】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 1. 緑茶香気成分群の抽出および分画・・・・・・・・・・・・・・・45 2. 香気画分による線虫N2 の化学走性・・・・・・・・・・・・・・45 3. CL4176 のAβ42 発現によるパラリシスの誘導と平均寿命の短縮・45 4. ヘキサン抽出物と抹茶様香気画分によるAβ42 毒性に起因するパラリ シス誘導の抑制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 5. 抹茶様香気画分によるAβ42 毒性に起因する寿命短縮の抑制・・・48 6. 香気画分の抗酸化能の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 7. 抹茶様香気画分によるAβ42 凝集抑制・・・・・・・・・・・・・49 8. 抹茶様香気画分とフラクション10 の含有成分分析・・・・・・・50 【考察】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 【総括】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 【謝辞】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 【参考文献】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 【図表】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69, 主指導教員 : 菅沼雅美, text, application/pdf}, school = {埼玉大学}, title = {緑茶カテキンと抹茶様香気画分によるヒト慢性疾患に対する医生物学的研究}, year = {2014}, yomi = {タカハシ, アツシ} }