@phdthesis{oai:sucra.repo.nii.ac.jp:00019164, author = {須内, 康史}, month = {}, note = {ix, 87p, 本論文では、インフラ供給においてPublic Private Partnership(以下「PPP」と略称)が注目度を高めている最近の潮流に着目し、伝統的に政府が役割を担ってきたインフラの供給においてなぜ民間を導入するPPP の活用が求められるのか、その目的にかかる理論的根拠と、PPP の目的を達成し成功に導く鍵となる政府と民間の間のリスクアロケーションについて先行研究に基づき考察する。そして、インフラ供給におけるPPP 活用の重要性が高まりを見せる開発途上国に焦点を当て、かかる理論的考察をASEAN の事例に適用して事例検証を試みること、さらに理論的考察と事例検証から導出される「PPP 実施における政府リスクのコントロール(制御)の重要性」を実証的に提示するべく、開発途上国におけるPPP の実績と政府リスクの制御能力との相関関係につきモデルを用いて実証分析を行うことを目的としている。 第1章では、PPP 先進国の英国や、英国の手法等を参考に導入を図ってきた日本、そして、世界の低・中所得国におけるPPP の動向を概観し、PPP によるインフラ供給増加の趨勢や政策プライオリティの高まり、さらに開発途上国におけるGreenfield Projects(新しい施設の建設・運営を行う事業)の重要性を確認した。 第2章では、冒頭でPPP に関する先行研究分野を概観した。Roehrich et al(2014)は、PPP に関する先行研究を①PPP の理念的な側面を分析する原理面、②PPP 実行上の組織間・対人的な側面に焦点を当てる実施面、③PPP 実施の便益と不利益を検証する成果面の3つの分野に大別している。本論文ではその中で原理面に焦点を当て、第2章において、インフラ供給にPPP を活用する理論的根拠、そしてその目的達成に不可欠な要素となるリスクアロケーションの在り方につき、先行研究からの抽出を行った。 まず、インフラの持つ費用低減産業、外部経済性等の特質から、インフラは伝統的に政府がその供給において役割を担っていくべきものと位置づけられてきた中で、なぜ民間を導入するPPP 活用が求められるのかにつき、先行研究はその理論的根拠を「民間導入による効率性の向上」に見出していることを抽出した。民間企業の利益追求行動は契約期間中の設備の建設・運営全般にわたるライフサイクル費用の最小化、そのためのイノベーション導入のインセンティブを生み、これにより効率性の向上が図られるところにPPP の目的が見出される。そして、Hart(2003)に基づき、この民間導入による効率性向上に重要な役割を果たすのが建設と運営の一体化(bundling)であることを確認した。 続いて、先行研究に基づき、政府から民間に対する適正なリスク移転が民間における費用対効果の高いサービス提供のインセンティブを創出し、効率性・「Value for Money」(VFM)向上をもたらす源泉となること、また、そこから導かれる帰結として、PPP のリスクアロケーションにおいては、政府から民間へのリスク移転の最大化を目的にするのではなく、効率性向上のための適正なリスクアロケーション達成を目的にすべきことを抽出し、政府から民間に移転されるリスクとVFM の間には政府・民間の間のリスクの最適配分が存在する関係にあることを示した。そのうえで、先行研究の帰結として、リスクはそれを最も良くマネジメントできる主体が負担することが最も効率的でVFM 向上に資する、また、「リスクを最も良くマネジメントできる主体」とは①リスク事象に対して最も影響力を行使しコントロールできる主体と②リスク事象を最も低い費用で負担できる主体の2つに分解される、という「適正なリスクアロケーションの原理」を示した。 さらに、先行研究のリスク分類に基づき、適正なリスクアロケーションの検討にあたってはリスクの内因性と外因性を考慮することが重要となること、とりわけ民間の参画によりPPP の効率性向上を図る観点からは、「政府がコントロール可能な内因性リスク」と「政府が最も低いコストで分散できる外因性リスク」に対し政府が適正にリスク負担することが重要であることを示した。 第3章では、先行研究に基づく第2章の考察をASEAN における事例(①タイ都市鉄道2事業、②インドネシア・ベトナムの独立系発電事業)に適用し、事例検証を試みた。その結果、①タイ都市鉄道2事業では外因性リスク及び規制・政策等の政府の内因性リスクに影響される度合いが大きい需要リスクのアロケーションにおいて歪みが見られ民間事業としての実行可能性(viability)に問題を生じさせていること、②インドネシア・ベトナムのIPP では政府がコントロール可能な内因性リスクたる法的・政治的リスクの一部を民間事業者へ移転するリスクアロケーションの問題が生じていたことが見出された。このように適正なリスクアロケーションの原理に基づけば本来的に政府が負担すべきリスクを民間に対して過大に負担を求める歪みをもたらした背景としては、PPP の設計にあたり政府から民間へのリスク移転の最大化限に力点がおかれたことがあると考察される。先行研究が示すように、PPP 導入の目的は「政府から民間へのリスク移転の最大化」を図ることではなく、民間導入により「効率性を高める」ことにあり、「適正なリスクアロケーションが効率性を高める」との認識がPPP の活用・設計において不可欠である。美原・藤木(2014)が指摘するように、最近ではASEAN におけるPPP のモデルにおいて「リスク移転型」から「最適リスク分担型」への移行の動きが見られているが、一方で今なお一部に課題も見られる中、PPP の理論的根拠と適正なリスクアロケーションの原理に照らし、今後もリスクアロケーション適正化の動きを進め、とりわけ政府が応分のリスク負担を行い、それを適正にコントロールしていくことが、ASEAN においてさらなるPPP の活用を図るうえで重要な方向性となると考えられる。 そして第4章では、第2章における理論的考察及び第3章における事例検証を踏まえ、民間の参画によりPPP の効率性向上を図るにあたっては、民間ではコントロールできない政府リスクが政府により適正に負担されコントロールされていることが重要となることに注目し、政府リスクが課題となる蓋然性が高い開発途上国におけるPPP の実績と政府リスクを制御する能力を示す指標の相関関係につき実証分析を試みた。とりわけ、経済成長の過程においてインフラの拡充を必要とする開発途上国において、Greenfield Projects(新規の施設の建設・運営を伴う事業)のニーズと役割が大きくなっていることを踏まえ、実証分析の中で、全体合計で見た分析に加え、Brownfield Projects(既存施設の継承・拡張等を行う事業)と対比しながらGreenfield Projects に与える政府リスクの制御能力の影響について実証的に分析した点に本実証分析の独自性があるといえる。 分析の結果、開発途上国(低・中所得国)におけるPPP の実施(プロジェクト数及び投資コミット額)と政府リスクの制御能力を示す指標との関係は、高い有意水準で統計的に有意な正の相関関係の結果が得られ、政府リスクをコントロールすることがPPP の実行・促進において重要であることを実証的に示した。とりわけ、開発途上国においてニーズの高いGreenfield Projects については、Brownfield Projects よりも政府リスクの制御能力の影響度合いが大きいことが実証的に示された。 本実証分析は、政府リスクの制御能力を示す指標がPPP の実行において重要であることを統計的に実証しており、本論文における理論的考察を実証面から裏付けるものとなっている。とりわけ、本実証分析により、政府リスクの制御能力が与える影響は、開発途上国において今後さらに重要性が増すGreenfield Projects において影響の度合いが大きいことが実証されており、かかる実証結果は、政府の組織能力・制度の質や透明性・予見可能性を高めて政府リスクをコントロールしていくことが開発途上国においてさらなるPPP の促進を有効に進めるうえで重要な鍵となってくることを指し示しているといえる。, 図表リスト viii はじめに 1 第1章 PPP 概観 3 1.1 PPP の展開概観 3 1.1.1 英国における展開 3 1.1.2 日本における展開 4 1.1.3 世界の低・中所得国における展開 5 1.2 PPP の定義と基本的な仕組み 7 第2章 PPP をめぐる先行研究と理論的根拠の考察 9 2.1 先行研究分野と問題意識 9 2.1.1 先行研究分野 9 2.1.2 問題意識 10 2.2 PPP 活用の目的にかかる理論的根拠の考察 11 2.2.1 インフラの経済学的視点 11 2.2.2 PPP 活用の目的にかかる理論的根拠:効率性の向上 12 2.2.3 財政制約からの開放をめぐる議論 14 2.3 PPP におけるリスクアロケーション 16 2.3.1 PPP の目的とリスクアロケーションの関係性 16 2.3.2 PPP における適正なリスクアロケーションの原理 17 2.3.3 需要リスクのアロケーション 20 第3章 ASEAN 事例への適用と考察 23 3.1 タイにおける都市鉄道事業 23 3.1.1 バンコク首都圏高架鉄道事業(Skytrain 事業) 23 3.1.1.1 事業概要 24 3.1.1.2 事業の状況と問題点 24 3.1.2 バンコク首都圏地下鉄事業(Blue Line 事業) 25 3.1.2.1 事業概要 25 3.1.2.2 事業の状況と問題点 26 3.1.3 事例分析 27 3.2 インドネシア・ベトナムにおける独立系発電事業 28 3.2.1 初期の独立系発電事業におけるリスクアロケーション 28 3.2.2 リスクアロケーション変更とその問題点 29 3.2.3 PPP 促進への環境整備と課題 29 3.3 ASEAN 事例の考察 31 3.3.1 リスクアロケーションの観点からの考察 31 3.3.2 ASEAN におけるPPP モデルの変化 32 第4章 開発途上国におけるPPP と政府リスクの制御能力の実証分析 34 4.1 政府リスクの制御能力の重要性にかかる理論的考察 34 4.1.1 PPP における政府の役割とインフラ事業の特性 34 4.1.2 適正なリスクアロケーションの原理に基づく考察 37 4.2 先行研究例 38 4.2.1 先行研究例1:Hammami et al.(2006) 38 4.2.1.1 Hammami et al.(2006)の研究目的・概要 38 4.2.1.2 Hammami et al.(2006)の実証分析結果 39 4.2.2 先行研究例2:Banerjee et al.(2006) 40 4.2.2.1 Banerjee et al.(2006)の研究目的・概要 40 4.2.2.2 Banerjee et al. (2006)の実証分析結果 41 4.2.3 2つの先行研究例の比較及び課題 42 4.3 実証分析:開発途上国のPPP 実績と政府リスクの制御能力との相関関係 43 4.3.1 本実証分析の目的と意義 43 4.3.2 実証分析 44 4.3.2.1 使用する変数とデータ 44 4.3.2.2 実証分析における仮設 47 4.3.2.3 実証モデル 48 4.3.2.4 実証分析結果 50 4.4 考察 52 おわりに 54 参考文献一覧 83, 指導教員 : 田口博之, text, application/pdf}, school = {埼玉大学}, title = {開発途上国のインフラ供給におけるPublic Private Partnershipの活用に関する研究 : リスクアロケーションと政府リスクの制御の視点から}, year = {2020}, yomi = {スノウチ, ヤスシ} }